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2013年6月23日日曜日

浅田彰『逃走論』


今回は浅田彰の『逃走論』を取り上げます。

私がこの本を初めて手にとったのは1990年頃ではなかったかと思います。私が浅田彰を知ったのは京都大学の数学者でエッセイストの森毅の文章を読んで知ったのが初めてではなかったかと思います。森毅については高校生の頃、森毅の著書で中公新書から出ていた『数学受験術指南』を父親に薦められて読んで知っており、それ以来、私は森毅のファンになってしまい、なんとなく彼の書いたものを目にしたら読むようになっていました。それで森毅の文章を新聞か何かで見つけては読んでいたのですが、その中のどれかだと思うのですが、具体的にどこで浅田彰の名前を知ったのかは残念ながら忘れてしまいましたが、確かニューアカデミズムという名前と同時に目にしたような気がしています。それから話は少し違いますが、後日になって気付いたのですが、確か高校の国語の先生だったと思うのですが、授業中の雑談で「最近、天才が出たといって世間を騒がしている若者がいるが、頭でっかちなだけで経験のない若者に何ほどのことが分かるのか?!」といった批判的な話をしていたのを覚えており、あれはおそらく浅田彰のことを言っていたのだなと後になって気付いたりしました。まあ、年寄りが若者に嫉妬して批判するみたいな感じでちょっと情けない批判だったのですが、それでもまだ浅田彰を読んでいただけその先生はマシで、最近の教師などは生徒に本を読めといいながら、本人は全然読まんでいないなんてことはザラにあるのではないかと思います。



目次

逃走する文明
ゲイ・サイエンス
差異化のパラノイア
スキゾ・カルチャーの到来
対話 ドゥルーズ=ガタリを読む


マルクス主義とディコンストラクション
ぼくたちのマルクス
本物の日本銀行券は贋物だった
共同討議マルクス・貨幣・言語


ツマミ食い読書術
知の最前線への旅
N・G=レーゲン『経済学の神話』
今村仁司『労働のオントロギー』
広松渉『唯物史観と国家論』
栗本慎一郎『ブタペスト物語』
山本哲士『消費のメタファー』
柄谷行人『隠喩としての建築』
山口昌男『文化の詩学1・2』
蓮実重彦『映画誘惑のエクリチュール』

さて、この『逃走論』ですが、第Ⅰ部は楽しく読むことができました。私の場合、森毅を読んでいたので内容的には第Ⅰ部は森毅的に理解することが容易かったです。第Ⅱ部はこの本で一番難解なパートではないかと思います。特に柄谷行人・岩井克人との三人での共同討議は「よくもまあ、こんな小難しい会話ができるものだ」と感嘆のため息をもらしたものでした。ですので、第Ⅱ部は、後日、大学生になってからじっくり読んだ記憶があります。第Ⅲ部のツマミ食い読書術などは学生にとってとても魅力的な手引きでした。紹介されてある本は片っ端から読みたくなりましたし、当時は現代思想が花盛りだったので書店にも現代思想関連の本がたくさん並んでいました。あの頃の私は本当によく本を買っていましたね。もう、大きな本屋さんへ行くと「あれも欲しい、これも欲しい」で本屋から出るときは財布の中がいつもスッカラカンになっていました(笑)。今となっては楽しい思い出です。そういえば、当時は本を手元にたくさん置いておかない気が済まなかったのでカバンに何冊も本を詰め込んでは持ち運びしていました。読みたくなったらいつでも読めるように読みたくなりそうな本を何冊もカバンに入れていたのです。結局、あれこれ読んでゆくうちに本当に読みたい本が手元になくて何のためにカバンに本をたくさん詰め込んでいたんだと悔しく思うこともしばしばありました。本当に読みたくなった本は自宅の本棚に置いてきたなんてことがしばしばでした。本の重みでカバンの肩紐が食い込んで痛かったのを覚えています。これも今となっては懐かしい思い出です。

ただ、この本ではマルクスがたびたび引用されているので、ソ連が崩壊してしまった今となっては意味のない文章になってしまったのではないかと危惧される人もいるかもしれません。まあ、マルクスは、元々、批判をするだけで「じゃあ、どうするのか?」という実際的な解決策については未熟なままでしたからね。ただ、第Ⅰ部のスキゾキッズの精神だとか第Ⅲ部の読書術だとかは今の若者たちにも十分に役立つと思います。いえ、むしろ今の時代だからこそ逃走論は役立つと言えるかもしれません。なぜなら、これが書かれた当時とは違って、今の時代は大企業の時代ではなく、個人の時代になりつつあるからです。喩えて言えば重厚長大な巨大戦艦の時代から軽薄短小で個々人が活躍する戦闘機の時代になりつつあるからです。そして、個々の戦闘機が活躍する時代こそスキゾキッズたち逃走論の時代ではないでしょうか。私たちはグローバル競争という地球規模の大きなうねりの中で軽やかに、しなやかに、そして、したたかに駆け抜けてゆく。スキゾキッズの本当の冒険はまさにこれから始まるのではないでしょうか。

追記
ちなみに私が浅田彰の本で最初に手にとったのが、島田雅彦との対談集『天使が通る』でした。これが確か1989年か1988年頃だったと思うのですが、今ひとつ記憶が定かではありません。対談の最初の方で漫画『北斗の拳』が参照されていて親しみを覚えたのを覚えています。でも、「卑近な例」として『北斗の拳』が上げられていたので、漫画ばかり読んでいた自分が少し恥ずかしかったという記憶も残っています。とにかく、浅田彰の知識の多さとハイカルチャーでハイセンスな感覚にテキストを読んでいる自分がどこまで理解できているか分からずやや不安でしたが、それでも楽しく読むことできました。

それから、何の雑誌だったかを忘れたので記憶違いかもしれませんが、テーマはマルクスだったのですが、浅田彰と誰かの対談だったのですが、半分以上がマルクスではなく、ケインズの話ばかりでびっくりした記憶があります。しかも「ケインズはゲイだけど、バレリーナの奥さんを貰ってカッコイイ!」みたいな内容で(笑)、「おいおい、テーマはマルクスとちゃうんかい」とツッコミを入れたくなるような対談でした。あのときはまだ冷戦崩壊前でしたが、既に浅田はマルクスをある程度見限っていたのではないかと当時思ったものでした。