Netflixでドラマ『阿修羅のごとく』を観た。全7話だった。
原作は向田邦子で、NHKで1979年と1980年にパート1、パート2としてそれぞれ放映されたらしい。今回は是枝裕和監督で再びドラマ化されたものだ。
内容的には竹沢家の四姉妹の物語だ。四姉妹の父・恒太郎の浮気を知った四姉妹がスッタモンダする話が前半で、後半は母・ふじが亡くなった後の話で、次女・巻子の夫への疑心暗鬼や長女・綱子の不倫騒動や、三女・滝子の恋愛や四女・咲子の夫の浮き沈みの話で、最後は四姉妹がなんやかんやで団結する話だった。ストーリー的には他愛のない話に私には感じられた。NHKで公開された当時は現代ドラマだったのかもしれないが、今、再ドラマ化された本作を見ると1979年頃の歴史ドラマのように感じられる。そう、今、このドラマを見る意味は、歴史ドラマとして、当時の日本を垣間見るという意味で意義があるように思う。
ちなみに、日本では歴史ドラマというものはあまり存在しないかもしれない。NHKの大河ドラマが歴史ドラマに相当するかもしれない。しかし、昨今の大河ドラマは歴史ドラマというにはあまり当時を反映しているとは思えない。まあ、その代わり『映像の世紀』のような素晴らしい歴史ドキュメンタリーがあると言えるのかもしれない。ちなみに、私が好きな歴史ドラマは英国貴族の物語『ダウントン・アビー』だ。他にもデヴィッド・スーシェ主演の『名探偵ポワロ』なんかも歴史ドラマとして見られる一面があると思っている。ポワロ自身はいつの時代も60代で歴史に沿ってはいないのだが。また、ジェレミー・ブレット主演の『シャーロック・ホームズの冒険』も歴史ドラマの一面が垣間見られる場面も少しあると思っている。そう、私が良いなと思うのは、近代から現代へ移り変わる時代の風景を垣間見られるのが大変良いと思うのだ。そして、このドラマで昭和54年頃の日本の風情が感じられるのだ。
さて、本作は是枝裕和監督が撮った作品なので、家族をテーマにした作品でもある。四姉妹のそれぞれの生き方、家族としての生き方が描かれている。親子や夫婦の生き方が描かれている。また、是枝監督作品の『海街diary』と似ていて、白菜を漬ける場面や障子を貼る場面など日本の風情が描かれている場面があったりする。家の中が物でごちゃごちゃしていて生活感があったりもする。そういったものも見どころかもしれない。
ただ、一番の見どころとしては、女優さんたちの演技かもしれない。宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すずの演技が大変素晴らしい。私などは、宮沢りえは写真集『Santa Fe』の頃の初々しかったイメージがあったので、内野聖陽との不倫の演技や着物姿での振る舞いなどは演技派女優になったものだと驚きで目を見張った。他の三人も大変すごい演技で、日本の女優の演技力は凄いと改めて思った次第だった。
余談になるが、ちょっと気になったのは、この作品に仏壇って出てただろうか? 私が子どもだったこの頃はどの家にも仏壇があったように思う。他所の家に遊びに行くと、仏壇があってその家のお婆さんが手を合わせてお祈りして、線香を上げたり、チーンと輪を鳴らすのが常だった。お供え物のお菓子をその家の子どもが食べたりしてたりしてそれが普通だったらしい。私は仏壇に馴染みが無かったので、他所の家の仏壇はとても不思議に感じたものだった。
さて、原作の向田邦子は名前だけはよく聞いていたけれど、どのような人物かはあまり気にかけたことはなかった。ざっとネットで調べた感じでは、元は出版業界にいたようで、世事に長けていたのかもしれない。あるいは集めた陶磁器を前にした写真もあったりで趣味人の一面もあったり、シックな黒い洋装やモダンなスーツを着ている感じからもモダニストだったのかもしれない。このドラマからは、当時の女性の自立を描こうとしていたのかもしれないし、大家族から核家族へ向かう家族のあり方を描こうとしていたのかもしれない。もちろん、女性の情念も描こうとしていたのだろう。向田邦子はエッセイも書いていたようで、日本の女性エッセイストの草分けは清少納言だから、清少納言の系譜のようでもあるし、女性趣味人というと白洲正子を連想するし、商社マンの男性の描き方を見ると、中年男性を描かせたら右に出る者がない観察力の鋭い高村薫を連想する。彼女は51歳で飛行機事故で亡くなってしまったらしく、その後の成熟が見られなかったのは残念だった。