2025年4月30日水曜日

今月読んだ本2025.04

 
日本人の死生観』(五来重)
 先祖供養という日本独特の宗教観を理解するのに大変役立つ本だと思う。帯文の「人は死んだら、まず怨霊になる」という一文がよく表していると思う。先月読んだ『先祖供養と墓』がその起源になっている。要は風葬と殯だ。
 
 
仏教と民俗』(五来重)
 日本仏教が先祖供養という日本独特の宗教観を取り入れて、本来の仏教からかけ離れたものになっているのを理解するのに大変役立つ本だと思う。TVアニメ『まんが日本昔ばなし』など、日本の庶民の宗教観を理解するのに役立つ。副題が仏教民俗学入門。
 
先月から今月にかけて五来重の本を3冊読んだ。そのおかげで、私にとって、これまで謎だった日本人の宗教感覚のひとつが分かるようになった。 
 
 
衣服のアルケオロジー』(フィリップ・ペロー)
原書のタイトルは「ブルジョアジーの上着と下着 - 19世紀における衣服の一つの歴史」ということで、19世紀フランスの衣服の歴史になる。鹿島茂さんの『デパートの誕生』や『パリ、娼婦の館』なんかと合わせて読むとより理解が深まるのではないかと思う。また、ゾンバルトの愛妾経済というのにも繋がる話だと思う。
 

2025年4月26日土曜日

新幹線大爆破 リブート版

『新幹線大爆破』(2025年)
 
Netflixでリブート版の『新幹線大爆破』を観た。
 
新幹線に仕掛けられた爆弾が速度が一定速度を下回ると爆発するという1975年のオリジナル版の設定と同じままで、時代を現代に移し替えた物語になっている。ただし、それだけではなくて、1975年のオリジナル版を109号事件として登場させ、本作はそれに関連した事件として物語は進展してゆく。
 
さて、さっそくネタバレになるが、犯人は柚月という女子高生だ。犯行の動機は109号事件当時に警察官だった父親が大言壮語して威張っていることに腹を立てて、それへの復讐のために事件を起こしたというものだった。彼女と父親の電話での会話からも分かるように、父親は異常に威圧的な人物で暴力も振るっていたらしい。要するに、父から娘への虐待だ。犯行は虐待された娘の復讐だ。そして、復讐は父親だけにとどまらず、この社会に対しても向いている。「ウソの普通を壊す」と彼女はいう。彼女は”人間の醜い本性”をさらけ出させようとする。爆弾を止めるには、自分を殺すしかないように爆弾にプログラムしたのだった。
 
ところで、彼女には協力者がいて、ダイナマイトの提供者である古賀勝利だ。彼は109号事件で共犯者である古賀勝の息子で、父親が爆死したことへの復讐も兼ねて柚月にダイナマイトを提供したらしい。ただ、オリジナル版では、古賀勝に息子がいた形跡は無かったと思う。主犯の沖田には息子はいたが。
 
なので、本作では、事件の核心には、家族問題がある。一方、オリジナル版では、中小企業の経営に失敗した社長、過激派くずれ、本土復帰した沖縄から東京に就職に来てやはり失敗した青年など、社会のはぐれ者的なひとたちが犯人で、犯行動機も日本社会に受け入れられなかったことへの復讐のようなものだったのではないかと思う。それは、社会的な問題といえるかもしれない。それに比べると、本作は家族問題に起因している。しかし、家族問題だからといって、軽視すべき軽々しい問題ではない。 核家族が大多数を占め、地域社会も壊れて無くなっている現在、家族問題は日本では極めて息苦しい深刻な問題なんだと思う。
 
ここまで、犯人の動機について感想を述べてきた。しかし、本作の見所としては、これらに主眼があるわけではないと感じる。柱になっているのは、車掌の高市が懸命に乗客を守ろうと職務を果たす職業人としての姿と、同じく指令所で新幹線の安全を守ろうとする笠置たちの姿だと思う。あ、それとそれらに携わる現場の作業員の人たちすべてだ。
 
話は変わるが、政府の描き方については、ちょっと疑問に感じた。そこまで人命軽視で現場の要請に反対するだろうかと不思議に思った。また、指令所の人たちもその理不尽な政府の決定に落胆しながらも従うというのも不思議だった。理不尽な決定だったら、現場は勝手に自分たちの判断で善処するんじゃなかろうか? 福島第二原発の事故のとき、現場は善処したのではなかったか。
 
 それから、さらに話は変わるが、脱線事故で思い出すのが、2005年に起こったJR福知山線脱線事故だ。100名以上が亡くなった大惨事を覚えている人は多いと思う。本作では新幹線後部を切り離して止まる設定だが、果たしてそれが生存率が高い作戦だとちょっと思えなかった。また、1975年の駅ホームにはホーム柵が無かったが、現在の駅ホームにはホーム柵があると思う。ホーム柵が設置されるようになった理由は人身事故防止のためだ。日本では飛び込み自殺が日常茶飯事になった時期があった。そういった変化についてもなんらかの言及があったらなと思う。
 
職務をまっとうしようと懸命に働く職業人の描き方が日本的で型にはまったように感じた。アメリカのドキュメンタリーには、危機対応を描いたものがけっこう多いが、なかなか深いものが多いと思う。あるいは、クリント・イーストウッド監督の作品にも、危機対応時に見られるアメリカ人の良心みたいな作品がいくつかあると思う。ついついそういったものと比べてしまう。
 
今思うと、オリジナル版『新幹線大爆破』で新幹線を停止させるときの緊迫感、もしかしたらもう一つ爆弾が残っていて爆発する可能性があると知りつつ、博多駅で爆発させるよりも爆発させても問題ない過疎地で停止させる決断をして、速度が時速80キロを下回るまでを固唾をのんで見守るシーンは、新幹線は爆発しないものの、なかなかの緊迫感があるシーンだったと思う。懸命に最善を尽くしたスタッフたち、にもかかわらず運を天にまかせるしかない現実、天に祈る気持ちで新幹線が止まるのを見守る指令所。そうとは知らずに安堵して新幹線を止める運転士と危険を承知で指令を出して見守る指令長の対比。なかなか良いシーンだったと思う。
 
 とはいえ、新幹線は日本を象徴するもののひとつであり、『新幹線大爆破』は面白い作品だと思う。
 

2025年3月31日月曜日

NEWS2025.03

 
3月1日(土)
 ちょっと寂しい。世界がネットで繋がって閉ざされた国が世界に開かれるきっかけを作ったツールのひとつにSkypeがあったと思う。
 
3月3日(月)
2027年の大河は小栗忠順になったらしい。勝海舟や坂本龍馬は知名度が高いけど、小栗忠順は知名度が低い。小栗忠順が米国へ行って世界一周して帰ってきた話などとても面白いと思う。他にも面白いエピソードが満載である。ちょっと楽しみかも。
 
3月4日(火)
トランプ政権がNATOの軍事費をケチったので、EUは自分で安全保障費を賄わねばならない。実際に実現できるかどうかは分からないけど。
 
3月5日(水)
中国の場合、国防予算を削減するのは軍閥の反発を招く恐れがある一方で、あまり国防予算を増やして軍閥に力を持たせるのも危険だという考えもあると思う。それに中国の軍は独立採算じゃなかったかしら?それにしてもこれだけ巨大国家だと舵取りが難しいと思う。今は習近平の独裁だが、その独裁が崩れたときどうなるか。
 
3月7日(金)
そもそも同盟とは相互に守り合う仕組みだ。だから、米国の駐留軍がいる国は逆に米国にその国の軍隊が駐留している。地位もお互いに対等だ。ところが日本は米国軍が駐留しているが、自衛隊は米国に駐留していない。そして日米地位協定で米国軍人だけが優遇されており、地位が対等でない。 石破首相が就任時に米国に自衛隊の駐留施設を作るといったのはそういう意味だと思う。日米が対等になるために。だから、トランプが片務的と言ってきたのは確かにそうだ。ならば、自衛隊を米国に駐留させるか、あるいは、米軍基地を撤退させるかが筋だろう。ただし、トランプとしては、日本がさらに米国から武器購入を促したいのが真意だとは思う。いっそ米軍基地を撤退させたらどうかと思う。そうすれば、日本の米軍基地上空の飛行禁止区域が無くなる。米軍基地が無くなれば、中国やロシアや北朝鮮が怖いって?自分の国は自分で守るのが主権国家としては当たり前だと思う。たとえ相手が大国であっても、それはどこも同じだろう。そもそも核の傘なんて現実的ではない。他国が核攻撃されたからといって米国が代わりに報復の核攻撃をしてくれるなんて信じられない。やはり、米軍基地は撤去してもらうのが一番良い。
 
3月12日(水)
トランプ政権の「関税かけるぞ」 という脅迫でディールを仕掛けるというワンパターン。米についての言及もそのひとつ。嘘をつくことにためらいのないトランプ政権。フェイクニュースで政治を動かそうとする悪質なトランプ政権。ただ、今の日本は米の高騰が問題なので安く輸入できるならして欲しいとも思う。一方、なぜこうも米が高騰したのか、単なる投機狙いの米の買い占めだけなのか、それとも生産力が落ちているのか、もし生産力が落ちているならそれはなぜなのか、いろいろと疑問に思う。もし、生産力が落ちているなら、輸入するのか、あるいは労働力不足なら移民を増やすのか、あるいは、ロボット導入による機械化で生産力を維持するのか、考えねばならないことが多い。
 
私の自宅の前でしばしば老夫婦がスマホで何かしていることが多くて、どうもポケモンGOだったのではないかと思っている。 ところが、最近、見かけなくなった。飽きたのかもしれないし、話に聞くところではサービスがいろいろと悪くなったとも聞く。とはいえ、ポケモンというコンテンツ自体の魅力は減っていないのだろう。ポケモンは日本が生んだ世界的なコンテンツのひとつなんだろう。
 
3月13日(木)
杉田水脈が次回参院選で自民からの比例代表の公認候補になったらしい。 なんとも嘆かわしい。それにしても、昨今、立花孝志とか石丸伸二とか、本来、政治家になってはいけない人たちが政治家になるケースが増えてきている。まあ、米国のトランプや韓国の尹大統領も似たようなものなので世界的な現象かもしれない。そもそも知識社会化による経済格差は別に移民やLGBTQの所為ではない。確か人米国の場合は不法移民が賃金が上がらない原因かもしれない。しかし、欧州などは移民の受け入れで商品の価格を安く抑えることになり、消費者や国内製造業者など得をしている人たちも多数いるわけで、全部が全部悪いわけではない。むしろ、知識社会の経済格差は構造的問題だ。格差解消のためにはそれこそ経済的な多様性を生み出すことで知識社会は経済的な厚みを増すしかないのではないかと思う。ともかく、ネトウヨの煽動政治家にのせられて差別主義・排他主義に向かうのは間違っている。
 
トランプ政権が相変わらず世界をひっかき回している。しかし、世界も単に迎合するばかりではない。 いずれ反撃に出るだろう。その兆候は少しずつ見えてきている。トランプ政権が壮大な空振りになったとき米国民はどう動くだろうか?目が覚めるだろうか?ところで、日本人も目が覚めつつあるか?もう日本は経済大国ではない。この先、かつてのように豊かになれることもない。日本の保守の考える日本文化など中身のない薄っぺらいものばかりだ。日本が経済も文化も貧しくなったと気づいたとき、そして、国全体が経済的に豊かになれるチャンスはないと気づいたとき、日本人は一体どういった方向に向かうだろうか?まあ、個人は個々で生き残る道を模索せねばなるまい。
 
才能ある個人の場合、日本を足場にするのはメリットが無いかもしれない。日本の企業や大学は才能ある個人を米国や大国よりも優遇してくれる可能性は低い。起業も日本ではリスクが高い。ならば才能ある個人は活躍するフィールドを米国や他の大国を選んだ方がいい。それが日本における才能ある個人の基本路線になるだろう。逆に日本そのものは、才能ある個人が流出した、二流、三流の国になる。そこでの夢はこじんまりしたものになる。島国で井の中の蛙で、それで良いと思うならそれも良いだろう。例えば、そもそも日本から人権という発想は生まれなかったと思う。他にも日本からは生まれなかったものは数多くあるだろう。だから、人類社会の本道からは少しずれたところに日本は行くかもしれない。文明に乗り遅れた民族、日本人。極東の辺境にあって、資源も知恵もない民族なら、それも仕方ないということかもしれない。ただし、ネットの時代に個人はそれに従う必要はない。
 
3月18日(火)
ダニエル・カーネマンが安楽死を選んでいたことに驚く。いや、まあ、彼の著書から考えると合理的な選択だったのかもしれない。

今週はいろいろあってニュースをチェックできなかった。週末は特に酷くて神経衰弱気味になってしまった。
 
3月25日(火)
とりあえず解散命令が出て良かった。今後もウォッチしなければならないが。
 
親の介護の件で今週は忙しくなってしまった。当分、忙しくてニュースのチェックができなくなるかもしれない。
 
 
 

2025年3月30日日曜日

今月読んだ本2025.03

 
自由への旅:「マインドフルネス瞑想」実践講義録』(ウ・ジョーティカ)
 上座部仏教の瞑想はどのようなものか知りたくて本書を読んだ。大変勉強になった。ヴィパッサナー瞑想は意識を観察して、次第に深化して心の根源に辿り着く旅といえるかもしれない。
 
 
 
 
先祖供養と墓』(五来重)
 祖霊信仰の起源を知りたくて読んだ。子供の頃、祖母の家や近所の家に遊びに行くと必ず仏壇があって仏壇に手を合わせる家人がいたものだった。私にはそれが不思議でならなかった。子供の頃の遊び場は近所の神社や山や海だったのでアニミズムの感覚はなんとなく分かるつもりだ。だから、ネイティブアメリカンのスピリチュアリズムもなんとなく分かるような気がする。ところが、日本の祖霊信仰・先祖供養はどうもよく分からないでいた。そこで本書を読んでみて少し分かるような気がしてきた。起源はどうやら風葬と殯(モガリ)にあるらしい。日本人の宗教について知りたくなったので、五来重の本をもう少し読んでみようと思う。
 
 
中国の信仰世界と道教』(二階堂善弘)
 中国の宗教観について知りたくて読んでみた。霊廟など、どういう信仰心で祀っているのだろうという疑問からだ。また、日本を含めた東アジアの祖霊信仰の起源とか関連があるんだろうかという疑問もあった。しかし、読んではみたものの、実に混沌としたものだった。
 
 

2025年3月22日土曜日

春画先生

『春画先生』(2023年)
 
Netflixで鑑賞した。
 
 春画の研究者・芳賀一郎と彼に恋する弟子・春野弓子の物語。
 
春画の蘊蓄を紐解くような作品かと思っていたら、後半は春野弓子の性愛遍歴の話になり、ついには芳賀一郎を射止めるというハッピーエンドを迎えるのだった。
 
春野弓子の性愛遍歴の相手を務めるのが、出版社勤務の辻村。この辻村が好色で、なおかつ、バイセクシャルの人物。春野弓子は芳賀を恋い焦がれていて辻村を嫌っているのだが、なぜか辻村とセックスしてしまう。 終いには辻村とホテルマンと弓子で3Pになってアナルセックスまで体験してしまう。いろいろあって、最後は、亡き妻の双子の姉・一葉を交えて、芳賀とSM的なセックスになって、ようやく芳賀と結ばれる。
 
ちなみに女性の性愛遍歴を描いた映画に1960年代の作品で『女性上位時代』や『キャンディ』があったと思う。こちらもなかなか面白かった記憶がある。そういえば、『O嬢の物語』なんてのもあったなあ。こちらはSMもの。他にも男性の性愛遍歴ものに香港映画『Due West』ってのもあった。
 
さて、本作は春画がベースにあるので、日本風な性愛が描かれているところが性愛遍歴ものとしては珍しいのかもしれない。和装とか鰹節を削ったりだとか久しぶりに日本文化に触れられて新鮮だった。
 
ただ、もう少し春画や浮世絵のアカデミックな蘊蓄が聞けるかと思っていたのだが、実際は春画愛好家は好き者って話に感じた。
 
日本の妖しく淫靡な官能性って、谷崎潤一郎や団鬼六なんかもそうなんだろうなあ。和服や夜会服なんかを着て、立ち居振る舞いがそれに伴わないとなかなか出ない味わいなのかもしれない。骨董の世界に独自の価値基準があるように、日本の官能にも独自の価値基準があるのかもしれない。