2025年4月26日土曜日

新幹線大爆破 リブート版

『新幹線大爆破』(2025年)
 
Netflixでリブート版の『新幹線大爆破』を観た。
 
新幹線に仕掛けられた爆弾が速度が一定速度を下回ると爆発するという1975年のオリジナル版の設定と同じままで、時代を現代に移し替えた物語になっている。ただし、それだけではなくて、1975年のオリジナル版を109号事件として登場させ、本作はそれに関連した事件として物語は進展してゆく。
 
さて、さっそくネタバレになるが、犯人は柚月という女子高生だ。犯行の動機は109号事件当時に警察官だった父親が大言壮語して威張っていることに腹を立てて、それへの復讐のために事件を起こしたというものだった。彼女と父親の電話での会話からも分かるように、父親は異常に威圧的な人物で暴力も振るっていたらしい。要するに、父から娘への虐待だ。犯行は虐待された娘の復讐だ。そして、復讐は父親だけにとどまらず、この社会に対しても向いている。「ウソの普通を壊す」と彼女はいう。彼女は”人間の醜い本性”をさらけ出させようとする。爆弾を止めるには、自分を殺すしかないように爆弾にプログラムしたのだった。
 
ところで、彼女には協力者がいて、ダイナマイトの提供者である古賀勝利だ。彼は109号事件で共犯者である古賀勝の息子で、父親が爆死したことへの復讐も兼ねて柚月にダイナマイトを提供したらしい。ただ、オリジナル版では、古賀勝に息子がいた形跡は無かったと思う。主犯の沖田には息子はいたが。
 
なので、本作では、事件の核心には、家族問題がある。一方、オリジナル版では、中小企業の経営に失敗した社長、過激派くずれ、本土復帰した沖縄から東京に就職に来てやはり失敗した青年など、社会のはぐれ者的なひとたちが犯人で、犯行動機も日本社会に受け入れられなかったことへの復讐のようなものだったのではないかと思う。それは、社会的な問題といえるかもしれない。それに比べると、本作は家族問題に起因している。しかし、家族問題だからといって、軽視すべき軽々しい問題ではない。 核家族が大多数を占め、地域社会も壊れて無くなっている現在、家族問題は日本では極めて息苦しい深刻な問題なんだと思う。
 
ここまで、犯人の動機について感想を述べてきた。しかし、本作の見所としては、これらに主眼があるわけではないと感じる。柱になっているのは、車掌の高市が懸命に乗客を守ろうと職務を果たす職業人としての姿と、同じく指令所で新幹線の安全を守ろうとする笠置たちの姿だと思う。あ、それとそれらに携わる現場の作業員の人たちすべてだ。
 
話は変わるが、政府の描き方については、ちょっと疑問に感じた。そこまで人命軽視で現場の要請に反対するだろうかと不思議に思った。また、指令所の人たちもその理不尽な政府の決定に落胆しながらも従うというのも不思議だった。理不尽な決定だったら、現場は勝手に自分たちの判断で善処するんじゃなかろうか? 福島第二原発の事故のとき、現場は善処したのではなかったか。
 
 それから、さらに話は変わるが、脱線事故で思い出すのが、2005年に起こったJR福知山線脱線事故だ。100名以上が亡くなった大惨事を覚えている人は多いと思う。本作では新幹線後部を切り離して止まる設定だが、果たしてそれが生存率が高い作戦だとちょっと思えなかった。また、1975年の駅ホームにはホーム柵が無かったが、現在の駅ホームにはホーム柵があると思う。ホーム柵が設置されるようになった理由は人身事故防止のためだ。日本では飛び込み自殺が日常茶飯事になった時期があった。そういった変化についてもなんらかの言及があったらなと思う。
 
職務をまっとうしようと懸命に働く職業人の描き方が日本的で型にはまったように感じた。アメリカのドキュメンタリーには、危機対応を描いたものがけっこう多いが、なかなか深いものが多いと思う。あるいは、クリント・イーストウッド監督の作品にも、危機対応時に見られるアメリカ人の良心みたいな作品がいくつかあると思う。ついついそういったものと比べてしまう。
 
今思うと、オリジナル版『新幹線大爆破』で新幹線を停止させるときの緊迫感、もしかしたらもう一つ爆弾が残っていて爆発する可能性があると知りつつ、博多駅で爆発させるよりも爆発させても問題ない過疎地で停止させる決断をして、速度が時速80キロを下回るまでを固唾をのんで見守るシーンは、新幹線は爆発しないものの、なかなかの緊迫感があるシーンだったと思う。懸命に最善を尽くしたスタッフたち、にもかかわらず運を天にまかせるしかない現実、天に祈る気持ちで新幹線が止まるのを見守る指令所。そうとは知らずに安堵して新幹線を止める運転士と危険を承知で指令を出して見守る指令長の対比。なかなか良いシーンだったと思う。
 
 とはいえ、新幹線は日本を象徴するもののひとつであり、『新幹線大爆破』は面白い作品だと思う。