2025年3月30日日曜日

今月読んだ本2025.03

 
自由への旅:「マインドフルネス瞑想」実践講義録』(ウ・ジョーティカ)
 上座部仏教の瞑想はどのようなものか知りたくて本書を読んだ。大変勉強になった。ヴィパッサナー瞑想は意識を観察して、次第に深化して心の根源に辿り着く旅といえるかもしれない。
 
 
 
 
先祖供養と墓』(五来重)
 祖霊信仰の起源を知りたくて読んだ。子供の頃、祖母の家や近所の家に遊びに行くと必ず仏壇があって仏壇に手を合わせる家人がいたものだった。私にはそれが不思議でならなかった。子供の頃の遊び場は近所の神社や山や海だったのでアニミズムの感覚はなんとなく分かるつもりだ。だから、ネイティブアメリカンのスピリチュアリズムもなんとなく分かるような気がする。ところが、日本の祖霊信仰・先祖供養はどうもよく分からないでいた。そこで本書を読んでみて少し分かるような気がしてきた。起源はどうやら風葬と殯(モガリ)にあるらしい。日本人の宗教について知りたくなったので、五来重の本をもう少し読んでみようと思う。
 
 
中国の信仰世界と道教』(二階堂善弘)
 中国の宗教観について知りたくて読んでみた。霊廟など、どういう信仰心で祀っているのだろうという疑問からだ。また、日本を含めた東アジアの祖霊信仰の起源とか関連があるんだろうかという疑問もあった。しかし、読んではみたものの、実に混沌としたものだった。
 
 

2025年3月22日土曜日

春画先生

『春画先生』(2023年)
 
Netflixで鑑賞した。
 
 春画の研究者・芳賀一郎と彼に恋する弟子・春野弓子の物語。
 
春画の蘊蓄を紐解くような作品かと思っていたら、後半は春野弓子の性愛遍歴の話になり、ついには芳賀一郎を射止めるというハッピーエンドを迎えるのだった。
 
春野弓子の性愛遍歴の相手を務めるのが、出版社勤務の辻村。この辻村が好色で、なおかつ、バイセクシャルの人物。春野弓子は芳賀を恋い焦がれていて辻村を嫌っているのだが、なぜか辻村とセックスしてしまう。 終いには辻村とホテルマンと弓子で3Pになってアナルセックスまで体験してしまう。いろいろあって、最後は、亡き妻の双子の姉・一葉を交えて、芳賀とSM的なセックスになって、ようやく芳賀と結ばれる。
 
ちなみに女性の性愛遍歴を描いた映画に1960年代の作品で『女性上位時代』や『キャンディ』があったと思う。こちらもなかなか面白かった記憶がある。そういえば、『O嬢の物語』なんてのもあったなあ。こちらはSMもの。他にも男性の性愛遍歴ものに香港映画『Due West』ってのもあった。
 
さて、本作は春画がベースにあるので、日本風な性愛が描かれているところが性愛遍歴ものとしては珍しいのかもしれない。和装とか鰹節を削ったりだとか久しぶりに日本文化に触れられて新鮮だった。
 
ただ、もう少し春画や浮世絵のアカデミックな蘊蓄が聞けるかと思っていたのだが、実際は春画愛好家は好き者って話に感じた。
 
日本の妖しく淫靡な官能性って、谷崎潤一郎や団鬼六なんかもそうなんだろうなあ。和服や夜会服なんかを着て、立ち居振る舞いがそれに伴わないとなかなか出ない味わいなのかもしれない。骨董の世界に独自の価値基準があるように、日本の官能にも独自の価値基準があるのかもしれない。

2025年3月15日土曜日

スパイの妻〈劇場版〉

 
『スパイの妻〈劇場版〉』(2020年)
 
 Netflixで鑑賞した。元々はNHKのドラマだったらしく、画質がドラマっぽい。
 
物語は731部隊による人体実験を告発しようとする福原優作とその妻聡子の物語。当時の日本の世相がところどころに描かれている。優作を演じた高橋一生の日本人好みのスマートなスタイルの良さが際立つ。また、聡子を演じた蒼井優の演技力が素晴らしかった。 ただ、物語の核心部分は微妙で、優作が聡子に偽のフィルムを持たせたり、彼女の渡航を密告したりしたのは、どう判断すればいいのか、戸惑う。もちろん、ポジティブな見方とネガティブな見方と両方の可能性があると思うが、どちらか一方に断定できるほど確信が持てず判断に迷う。
 
ちなみに、蒼井優の演技は素晴らしかった。 涼しく澄ました顔と、実際は内面は苦しく戦っており、涼しい顔とは対照的な激しく泣き崩れる場面などとても素晴らしいものがあった。
 
ところで、スパイの妻の物語として原節子が演じた黒澤明監督の『わが青春に悔なし』がある。この作品では、 原節子は夫の墓参りがしたいという糸川検事に最初は「おやめなさい」と諭すように言ったあとで「私は嫌!」と厳しい表情で断る。あるいは、村人たちから嫌がらせで田畑を荒らされたとき村人たちの高笑いする声が幻聴のように聴こえる中で彼女は目を剥いて病身に鞭打って負けるものかと立ち上がったりする。その形相は小津安二郎の描く原節子では絶対に見られない表情だ。美貌の女優・原節子の他では決して見られない演技だった。そこには力強い個人の意志があるのが分かる。相手が国家権力であろうと周囲の人間全員であろうと自分が正しいのなら決して信念を曲げないという力強い意志があった。スパイの妻には、個人の力強い意志がある。全体主義の世界でそれに抗う個人の意志。全体主義の抑圧する恐怖の力とそれに抗う個人の自由意志。その大変さがスパイの妻では描かれている。
 
個人vs全体主義国家という構図の戦いにおいて、個人が負けまいと必死に戦う姿は、現代の習近平、プーチン、トランプなどの独裁者の時代、全体主義の時代に必見な作品だと思う。
 

2025年3月7日金曜日

ニューオーリンズ・トライアル

『ニューオーリンズ・トライアル』(2003年)

Netflixで『ニューオーリンズ・トライアル』を観た。
 
元々は2003年の上映でもう随分前の映画だ。いわゆる法廷もの。 法廷で争われる争点は銃乱射事件における銃の製造会社の責任についてだ。いわゆる米国社会の銃規制問題がテーマだ。ただし、物語は、銃器メーカーに雇われた陪審コンサルタントであるフィッチと陪審員に潜り込んで陪審員をうまくコントロールしていくイースターの陪審員を巡る駆け引きが描かれている。要は「陪審員を売ります」と取引をもちかけるイースターと自分たちの力で陪審員を取り込んでいけるとするフィッチの争いだ。そして、最後にイースターの動機が明らかになって物語は結末を迎える。

米国の銃問題は今も続いている。銃を規制したい人たちと銃を所有したい人たちの争いが今も続いている。なぜ米国人は銃を所有したいのかは、かつて日本の侍が刀を武士の魂と言ったのと似ている。武器を所有することで自由を侵害する敵に武力で立ち向かえるようにするという米国憲法修正第2条もそれを後押ししている。だから米国人にとって銃は米国人の魂なんだろう。しかし、その銃の所為で銃乱射事件などあまりにも多くの人が命を落としている。代償があまりにも大き過ぎると私には思える。

この映画は米国の銃規制問題を考える上で欠かせない作品だと思う。米国の銃問題が解決しない限り、思い出したように何度も観たい映画だ。



2025年3月5日水曜日

新幹線大爆破

『新幹線大爆破』(1975年)
 
Netflixで『新幹線大爆破』を観た。最初は全部見るつもりはなくて何気に見始めたのだが、見始めると面白くなって最後まで見てしまった。後で知ったのだが、キアヌ・リーブス主演の映画『スピード』(1994年)の設定のモチーフにもなったらしい。
 
高倉健が主演で、倒産した零細工場の元社長で主犯を演じている。共犯には過激派くずれの男、沖縄出身の青年があてられていた。また、新幹線の運転士を千葉真一、運転指令長を宇津井健が演じていた。
 
緊迫する運転指令長を宇津井健がなかなか良い味を出していた。高倉健が演じる犯人が金を奪った後、妙に垢抜けた感じに変わっていたのは不思議だった。金を奪うまでは倒産した町工場の社長でつなぎの作業服なんか着ていたのが、金を奪った後はゴルゴ13風のちょっとだけ小洒落た雰囲気に変わっていた。でも、最後の場面などは、当時高倉健は人気があったんだろうなというのが分かった気がした。
  
ともかく、新幹線は近代日本の象徴のひとつなんだろうなあ。