2010年4月29日木曜日

東浩紀『論壇時評4月号』(朝日新聞)を読む

朝日新聞に東浩紀さんの論壇時評が掲載されていたので、それについて、思いついたまま、少し感想を書いてみます。

1.用語について
まず、驚いたのは「ポインタ」という用語。これはプログラミング用語で「指し示すもの」を意味する。プログラマーならすぐに感覚的に体感的に理解できるのかもしれないけれど、一般読者にはどこまで伝わるか微妙だと思う。でも、新鮮かつ斬新で良かったし、たぶん、的確な表現だと思います。

2.そらのさんについて
それから驚いたのは、そらのさんを紹介していたこと。そらのさんをどう位置づけるかはちょっと難しいところがあると思います。そらのさんって、ジャーナリストではないと思う。現場をのぞきにいくけど、当事者意識もないし、批判精神もない。まるで、夕飯の買い物の途中で事件現場をたまたま通りかかったやじ馬に似ている。あるいは、そらのさんはアーティストという位置づけが正しいのだろうか?でも、それって現場で一生懸命議論している人たちを遠巻きから見て「まあ、なんて口角泡を飛ばしてムダに一生懸命なのかしら。オホホホ」的な非当事者意識に感じられる。それがアートというなら、まあ、ギリギリ許せるんだけど、しかし、アートというにはエッジがはっきりしていないと思う。グレーな立ち位置にいる。首を突っ込めるし、すぐに首を引っ込めて逃げるって感じで、あまり、感心しない。と、私はそらのさんをそんな風に感じている。誤解かもしれないけれど。そんなわけで、私は彼女にローザ・ルクセンブルクや『銀英伝』のジェシカ・エドワーズを読むことをお奨めする。彼女たちの生き方がいかに命がけの真剣勝負だったかを知ってもらいたい。ジャーナリストになるにしろ、アーティストになるにしろ、その真摯な真剣さは絶対に必要だと思うから。

3.ツイッターと政治
さて、論壇時評に戻ろう。もう1つ、驚いたことはツイッターを高く評価していること。政治家とツイッターについてちょっと考えてみたい。政治家でネットを上手に利用した人で思い浮かぶのが、小泉純一郎元首相。彼が始めたメルマガは確かに政治家と一般市民を近づけたと思う。それまでは、間にマスメディアが入るために距離感があった。タウンミーティングもそう。政治家と一般市民を近づけたことによって、一般市民の政治への参加意識が高まった。議論が白熱することで、満足感があった。ただ、メルマガはとても長かった。読むのがけっこう大変だった。内容が総花的になってしまうんじゃないかと思う。詳しくて、総花的だとちょっと読むのが辛い。鳩山首相のツイッターはそういう意味では読みやすい。宇宙人だけど(笑)、人間自体は悪い人間ではない、と感じられる。そういう意味で親近感は感じられる。しかし、一方で、ツイッターは国民の人気取りのためのものというのは歴然とある。そんな人気取りのために貴重な時間を割いて欲しくないという思いもある。だから、まあ、いまの分量でいいのかもしれない。一日一言。ところで、麻生前首相と比べると、麻生前首相はなんで、あんなに偉そうなんだろうと感じてしまう。やっぱり、御曹司であり、経営者だからかもしれない。でも、首相は国民の社長ではないのだから、あまり、威張ってもらっても困る。時代の流れかもしれない。サザエさんに出てくる学校教師が昔の教師さながらコワモテなのに対して、ちびまる子ちゃんに出てくる学校教師がやさしいのと同様に、国民にうける政治家の物腰が変わってきたのかもしれない。

4.記者クラブについて
あ、論壇時評に話を戻ろう。記者クラブの問題も指摘していた。あれは日本の新聞と海外の新聞の違いじゃないだろうか?日本の新聞は全国紙で発行部数も世界一を誇る。一方、海外の新聞はどこも地方紙でその地域だけで読まれるものがほとんどだ。NYタイムズもLAタイムズもそう。だから、新聞も全国紙がやたらと幅をきかす。地方なんて、中央より格下に扱われる。そういう階級があるからかもしれない。記者クラブは。

5.論壇の衰退
それにしても論壇自体が、いま、無くなりつつあるんじゃないかと思う。あいつぐ論壇誌の休刊。論壇時評で論じるべき論壇が圧倒的に少なくなったかもしれない。だからかもしれないが、昔の論壇時評と比べてみると、東浩紀の論壇時評は詰め込み感がない。過去の論壇との連続性がない。でも、その方が若者には受け入れられると思う。今回のは、論壇時評というよりは、社会時評あるいはネット社会時評といった方が正確かもしれないけど、ネットの出現で論壇が変わりつつあることを新聞紙上で言及するのは良いことかもしれない。

6.新聞の衰退
そうそう、新聞社だって、ネットについてはどう取り組んだらいいか迷っているはず。日経は電子版を出して、新たな試みにチャレンジしているわけだし。海外の新聞社だって経営危機に陥って縮小したり、はてはNPOにしようという動きもある。新聞購読者はどんどん減っている傾向にある。

7・余談
東浩紀さんの写真はアロハシャツでなくて良かった。カジュアルだけどジャケットでちょっといい感じだった。CGは一瞬ビルかと思った。でも、なるほど、力強さを感じる。いい紙面だった。昔のようなガッツリした論壇時評には、「編集部が選ぶ注目の論考」がガッツリ感のある時評になっていたと思う。ニューズウィークの「中国ルール」の記事は気になっていた記事。拙論「日本の未来戦略」を参照していただければと思う。http://www.neoaca.com/critique