2013年3月26日火曜日

文化系トークラジオLife2013年3月号

文化系トークラジオLifeの『論壇のいま、Lifeのこれから』を聴いたので感想とかつらつらと考えたことを書いておきます。

まず、ラジオの主題は2つで、1つは「論壇について」で、もう1つは4月から隔月放送になるLifeについて「これからのLifeをどうするのか」といった内容でした。

面白かったのは大澤聡で、明治・大正・昭和時代の過去の論壇・文壇事情についての話でした。私としては山口昌男の『内田魯庵山脈』で読んでいたので彼の話は大体分かるような気がしたし、それを補完する意味で面白い話だった。

また、『Lifeのこれから』についてはユルイ社会学って感じが結論だったろうか?これについては出演者が社会学者の鈴木謙介と斎藤哲也・速水健朗・仲俣暁生らライターなので、社会学者は専門は社会学だし、ライターの専門は言うなれば考現学なので、その融合となればユルイ社会学という結論はごく当たり前な結論だと思う。

さて、聴いていて不満だったのは「論壇のいま」のパートで、イデオロギー的な、あるいは、政治経済的な今の状況がまったく話題になっていないことだった。唯一、「東西冷戦の終焉」というのが言われたきりで、そこから後の言及がまったく無かった。当たり前だからわざわざ触れなかったのかもしれないが、やはり、前提条件として、今、自分たちが生きている世界の政治体制や経済体制について一応触れておくべきではなかったろうか。

そこで今の状況について、私なりの見立てだが、簡単に書いておくと
・1989年ベルリンの壁崩壊、1991年ソ連崩壊により東西冷戦構造が崩壊した。 

・東西冷戦構造の崩壊によって東側諸国が西側諸国の市場に組み入れられる、いわゆるグローバリゼーションが始まった。そして、2000年に中国がWTOに加盟して、安価な労働力が中国を世界の工場にする。 2012年には中国は日本のGDPを抜いて世界第2位の経済大国になる。

・一方、日本は製造業が中国に奪われて経済力は下降の一途をたどり、失われた10年と言われたが、10年どころか20年も経済成長が1%という低迷を迎える。

・中国は米国と世界を二分する覇権を目指しており、日本は米国と中国という二大超大国の中間という難しい立場に位置する。(さらにロシアを加えることもできる。)

・東アジアに絞れば、日本、韓国、北朝鮮の三国が微妙な関係にある。

・東西構造崩壊に対して日本の論壇は沈黙してしまった。なぜなら日本の論壇は左翼が多く、社会主義の失敗を素直に認められなかったからだ。

・今後の日本の課題は経済大国から失墜して下降をたどる中で、個人や企業や日本社会がどうやってグローバルな大競争時代を生き抜いてゆくか、である。端的に言えば雇用の問題である。ちなみに他の欧米先進国も同じ悩みを抱えている。
かいつまんで言うと以上のようになるが、他にも中東や北アフリカ、EUやロシアも大いに変化しており、言及出来ていないことも多々あるのを断っておく。

ともかく、世界情勢の現状と今後の日本の課題について言及しないで論壇について語っても仕方がないのではないか。論客の見た目とかトークのうまい下手とか内容ではなく、うわべについていくら語っても一番肝心な内容が疎かにはなっては本末転倒ではないか。もちろん、視覚効果やパフォーマンスを不要と言っているわけではない。いろいろな伝達メディアが発達してきたのだから、それらを使うことを否定することはできない。しかし、何よりも肝心な内容がどうでも良いというような扱いではダメだと思う。

さて、総じて今放送の結論としては、打ち上げやピクニックなどサロンやサロンを通じたネットワークが大事だという話だったと思う。それは本記事でも示した山口昌男の『内田魯庵山脈』でも言っていた話だと思う。さらにこれらを推し進めれば、山口昌男が晩年に著した遊民的な生き方を示した敗者学にも通じると思う。